『鏡像の暁』
数百年、数千年に一度起こる、地球と太陽の大接近。
私は、その光景を見たくて、まだ寒々しい風景が広がる山へ登った。
山頂には、見物に訪れた沢山の人々がいる。
そして、その日。
太陽は西から昇った。
日本海の向こうから、あっという間に登る太陽。
伸びきった山谷の影がぐんぐんと短くなった。
ほんの少しの間に、太陽は南中する。
地球の大気がレンズとなり、太陽は2つ、そして3つと鏡像つくり、また消える。
太陽接近の影響で、大気はかき乱され、紅茶にミルクを落としたかのように雲が広がる。
東の空へ沈みはじめる黄緑色の太陽。
背後の西の空には、鏡像の太陽。
その摩訶不思議な光景に緞帳を落とすかのように、空は瞬く間に雲で覆われた。
黄緑色の太陽も、その鏡像も見えなくなり、静かで、まだ寒い、普段の初春の山に戻った。
空を覆う灰色の雲は、ところどころで光が白く透けている。
地球と太陽の大接近は、終わった。
雪が降りはじめる。
見物人たちは、下山の途についた。
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『菓子』
私たちが、普段何気なく口にしている「ある菓子」が問題だ。
「ある菓子」はサクサクした食感にするために、製造過程で「ある成分」を使って原材料を化学反応させている。
しかし、その化学反応で生じたサクサクの物質は、高温でも分解されない状態に変質してしまう。
そして、私たちの体内でも、また同じように分解されないというのだ。
私たちの体内では、知らず知らずのうちに、分解されずに残ったサクサクした物質が蓄積してしまう。
これは健康上重大な問題だ。
私はこれまでに、どれだけたくさん「ある菓子」を食べてしまったかと思うとゾッとした。
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『婚礼 〜ウォルト・ディズニーの夢の国〜』
この度、ミッキーマウスとドナルドダック、そしてグーフィーが結婚するはこびとなった。
3組合同の挙式は、遊覧船(私にはマーク・トウェイン号のように見えた)の上で開かる。
もちろんミッキーの相手はミニーであるし、ドナルドはデイジーと結ばれるわけだ。
そして私、グーフィーもまた、婚礼に心踊らせていた。
各両家の知人も集まり、船上は賑わいをみせていた。
ミッキーとミニー、ドナルドとデイジーがそれぞれ連れ立って現れる。
ウキウキと踊りながら登場したので、船上は益々賑わった。
私(つまりグーフィー)も、婚約者と腕を組みさっそうと入場する。
何気なく組んだ腕を見ると、そこに相手の腕はなく、体長30センチほどの蜘蛛がまとわりついている。
そういえば、私の婚約者は、蜘蛛だったことを思い出した。
腕にまとわりついた、黄色と黒と黄緑が入り交じった、まだら模様の大蜘蛛を、ゲスト達に紹介して回る。
それぞれの婚約者たちが揃い、挙式はいよいよ盛り上がりを見せる。
気づくと、腕にまとわりついた大蜘蛛(つまり私の婚約者)は、1匹だけでなく、大小あわせて10匹以上いることに気がついた。
婚約者ではあるが、さすがに耐えられず、大量の蜘蛛がまとわりつく上着を脱いだ。
すると、私の足元のウッドデッキや、私の靴、ズボンにも、大小さまざまな蜘蛛が数え切れなほどまとわりついていた。
その蜘蛛はすべて、私の婚約者と同じ種類の蜘蛛だった。
結婚式会場で、私は身動きが取れなくなってしまった。
しかし、淡々と挙式は進んでいくことを予感させた。
挙式の最中に、大量の蜘蛛に囲まれながら、私はとても気味の悪い思いをしていた。
しかし同時に、その蜘蛛を潰してしまわないか心配だった。